1打席目のイチローは、一塁に痛烈な当たり。これをマーク・テシェイラが弾くと、打球がテシェイラの後方を転々とする間に、イチローは二塁へ。三盗を決めた後、ホセ・ロペスのボテボテのピッチャーゴロの間に、イチローが生還して、マリナーズは先制。
マリナーズは最近、最悪でもこういう形で点が取れるようになってきた。それが例えば、今回の厳しいロードトリップでも、ここまで3勝3敗の五分でいられる理由といえる。
珍しいプレーが起きたのは、2回。1点を返され、なおも1死三塁の場面で、松井秀喜がライトにライナーを放つ。これをなんと、イチローがグラブの土手に当てて、落球したのである。
もちろん、記録は失策。先日のドジャーズ戦では、照明でボールを見失い、打球が左太ももに当っているが、今回は、そうした言い訳のできない失策だった。
あの場面、イチローが狙ったのは、「ダブルプレー」だそう。捕ってすぐに投げれば、十分に三塁走者を刺せるタイミングと感じたようだ。
しかし、打球を体の左側で捕っていては、ボールを持ち替えるときに時間的なロスが生まれると判断。回り込んで、つまり、体の右側で捕れれば、そのロスが防げると判断したのだが、回り込む前に打球が体の正面に。先のプレーを意識するあまりに、「(捕球が)疎かになった」とイチローも、認めた。
「それが、僕の言い訳です」
その時点では、1点差に迫られ、展開次第では大きな失策となったが、イチローは自らの打撃で、ミスをカバー。4回、2死一、二塁で打席に立つと、走者一掃の二塁打を放ち、マリナーズはリードを広げている。
ところで、イチローの落球以降、ヤンキースの選手が打ち上げる度に、ファンが大きな声を上げるようになった。マリナーズの野手を動揺させる目的か。
問題のプレーが起きた2回の最後も、イチローのところに打球が上がると、ファンはイチローに向けて、声を張り上げている。
ある意味、イチローはそれに応えた。
ボールをとってから、ダッグアウトに向かう時に、一塁側の内野席に向かってボールを投げ込もうとして、止めたのである。
もちろん、ファンらは大ブーイング。が、それは、イチローが意図的にしかけた挑発だった。
「まあ、ここちょっとお上品になっちゃっている感じがするので、それくらいしないと盛り上がってくれないし、そうなると挑発しないとなかなか乗ってきてくれないので……」
■「ブーってやって欲しいよねえ」
ファンがおとなしいというのは、今回、確かに感じたことだ。
なぜだろう。
例えば、汚いところには、みんな平気でゴミを捨てるのに、ある日から、いつもは汚い道路が、ゴミ一つ落ちていないきれいな道になったら、誰もゴミを捨てなくなるのと、心理的には同じだろうか。
実は、今の話は、ヤンキースが開幕戦で日本に訪れた2004年に、デレック・ジーターが言っていたこと。
彼に、何か驚いたことがあるか? と聞けば、「街が、きれい」という話をしたのである。
そして彼は、こう言った。
「これなら、誰もゴミを捨てないんじゃないか?」
その時は、そのコメントがピンと来なかったが、今は、何となく分かる気がする。
話を試合に戻せば、イチローは、ガラが悪いながらも、野球を知り、熱狂的なヤンキースファンが好きだった。
しかし、そうやって挑発した直後の打席でも、ほとんどブーイングが聞こえなかった。イチローはがっかりしたそうだ。
「あんまり面白くなかったねえ。ブーってやって欲しいよねえ」
球場そのものにも、不満が残った。
「これだけ狭いと、ポジショニングを変えられない。ほぼ同じところでしか守れないので、それはちょっとつまらない。フェンスがあれだけ近いので、越えられたらホームランという感覚。だから、打者によって自分の持っている知識とかにおいとかを生かしづらい球場だよねえ、ライトは」
選手の力を生かせない球場の狭さ。おそらく、打撃で恩恵を受けても、同じように感じている選手は多いのだろう。
■圧巻だった城島の送球
ところで、この日は、城島も2安打。
それ以上に、3回の1死一塁で、盗塁を仕掛けてきたジーターを二塁で刺した送球が、まさに圧巻だった。
本人いわく、「ボールを握れなかった」そう。しかし、それは経験でカバー。「テールさせるようにして」、ジーターが滑り込んでくるところに投げ込んだ。
流れがヤンキースに傾きかけていた場面。それを断つ意味でも、大きなプレーだった。
しかし、7回は盗塁を試みて、投手のけん制に誘い出されている。
レッドソックス戦(現地時間3日)の試合前、マリナーズのクラブハウスにいると、ロブ・ジョンソン捕手に話し掛けられた。
「いいですか?」
いきなり「いいですか?」といわれても、返答に困る。
握手まで求めてきた。
眉をひそめていると、「いいですか?は、How’s goin’ でいいんだっけ?」
なるほどね。機嫌のことね。
昨晩、ほとんど寝ていないので、眠いという話をしたら、「日本語で」と。
ゆっくり、「ね・む・い」と返せば、うなずきながら、分かったような顔をした。
そのとき、思ったことがある。
彼とは、きょうほど近い距離で会話を交わしたことがなかったが、春先に比べれば、ジョンソンの顔つきが、随分変わった。
「自信」という言葉を使えば簡単だが……、まあ背後にあるのは、やはりメジャーでやる力をつけた、「確信」だろうか。
■歯車かみ合い、遠征の勝ち越しに王手
ジョンソンはこの日、3本の二塁打を放った。
打撃が弱いと言われていた。確かに、この日が始まる前の打率は、1割8分7厘。敵にしてみれば、いわゆる「安パイ」である。
しかし延長11回表、1死二、三塁の場面で、二塁打を放つ。2人の走者がかえって、それが決勝点となった。
これまでなら、確実に代打を送られるケース。そこでそのまま打席に立たせたドン・ワカマツ監督の決断もすごいが、考えてみれば左打者の代打もいない。よくこの戦力で、勝ち越しているとも思う。
ミゲル・バティスタが言っていた。
「前半の最優秀監督はワカマツ監督だろう」
話をジョンソンに戻せば、「(4回の)2本目の二塁打が、自分でもうまく打てた」と話した。その二塁打も、タイムリー。ジョンソンは、1試合3打点をマークした。
城島健司とは、ロッカーも隣りで、最近は刺激しあう仲だ。
城島もこのところ、出場した2試合では、マルチ安打を連続で放っている。その城島を外して、レッドソックスとの初戦はジョンソンを起用。ワカマツ監督も難しいだろうが、ジョンソンを起用するそれなりの理由もあるということか。
しかし、8回に追い付かれて、よく勝った。
これでこの遠征は4勝3敗。あと1勝で勝ち越し。今のチームは、いろんな歯車がかみ合っている。役割が確定しているのは、イチローら一部の選手だけ。あとは、その日によって求められるものが違うが、それを着実にこなしている印象。
そこにエゴも感じない。そこだろうか。今のチームが崩れないのは。
あす、明後日とデーゲーム。まずは1勝。ロード9試合の勝ち越しを目指したい。
http://sportsnavi.yahoo.co.jp/baseball/mlb/2009/text/200907040001-spnavi.html










